織田文化歴史館 デジタル博物館

1 越前町の芸術家 ―全国に挑んだ人々

 日本最大の公募展である「日展」の前身、「文部省美術展覧会」(以降「文展」)は、明治40年、第一部日本画、第二部西洋画、第三部彫刻の三部制で始まった。現在、越前町の作家が活躍している工芸美術が第四部として登場するのは、「文展」の後継として始まった「帝展」で、昭和2年の第8回から9年の第15回まで、そのあとに続いた「日展」では、昭和21年の第1回から登場している。

 福井県は越前焼、越前漆器などの伝統工芸が盛んで現代工芸が生まれる素地はあった。しかし伝統工芸が主流であるがゆえに「日展」第四科に福井県在住の入選者が初登場するのは、昭和27年、第8回展になる。鯖江市の漆芸家、真保由斎の「栗の春秋」が初入選した。

 しかし当時の日展では伝統工芸的な作品も出品されており、木村盛和(大正10年-平成28年)も、京都在住時、昭和22年の第3回日展で「延令草文油滴天目釉花瓶」が入選している。これらの作家たちの多くは昭和30年に日本伝統工芸会が発足し、日本伝統工芸展が開催されると作品発表の場をそちらへ移していった。木村も「日本工芸会」の設立に参加し、天目釉の名手として「日本伝統工芸展」で次々と作品を発表する。昭和39年、これらの功績と自身の技術が認められ、木村は「第9回日本陶磁協会賞」(主催:日本陶磁協会)を受賞、この年開催された第11回日本伝統工芸展では、出品作「天目釉変り皿」が優秀賞である「NHK会長賞」を受賞し、京都国立近代美術館に買い上げられた。

 越前町の入選者が日展に登場するのは遅く、昭和45年第2回改組日展になる。県内の学校で教鞭をとりながら日展に挑戦していた、鋳金の竹内英輔が「朱銅花器 北の海」で初入選する。続いて翌年の第3回展には第1科日本画で、同じく教職にあった加藤進が「ランプと壺」で、昭和50年第7回展では、竹内の友人でこちらも教職にあった田村民藤(本名:民男)が、第4科に陶器の作品「北陸のフロスト」を出品し初入選する。

 竹内と田村は司辻光男をはじめとする現代工芸を志す県内の仲間に声かけ、昭和56年、現代工芸美術家協会福井会を立ち上げ、己の腕を磨くとともに後進の育成にも力をいれていく。平成3年に竹内が、平成13年には田村が日展会員に推挙された。

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第4集』2019年 をもとに改変したものである。

2 日展作家

(1)竹内英輔(たけうちえいほ)

会員:平成3年~平成11年

竹内英輔 略年譜
昭和7年 7月 30日、生まれる
昭和26年 福井大学講師であった洋画家の西山真一に師事する
昭和28年 福井大学教授であった鋳金工芸家の笠原行雄に師事する
昭和29年 9月 第7回福井県総合美術展知事賞
昭和30年 3月 福井大学学芸学部卒業
昭和33年 4月 第43回光風会展絵画部「岩頭」入選
昭和34年 4月 第44回光風会展絵画部「仏堂」入選
昭和45年 金属造型作家の蓮田修吾郎に師事する
11月 第23回福井県総合美術展知事賞
第2回日展「朱銅花器 北の海」初入選
昭和47年 3月 第11回日本現代工芸美術展「作品3-72」初入選
昭和53年 4月 「福井県現代作家展」に「風と街のメルヘン」(第8回日展入選)出品(主催:福井県立美術館)
昭和54年 2月 「第2回日本金属造型作家展」に「視覚のPOEM」(第9回日展入選)出品(和光ホール・東京)
3月 第18回日本現代工芸美術展「海と舟、そして」現代工芸会員賞
昭和55年 3月 第19回日本現代工芸美術展「連動するもの「生命」」新審査員
4月 日展会友となる
昭和56年 現代工芸美術家協会福井会発足に参加、会長となる
昭和57年 2月 「第5回日本金属造型作家展」に「海と舟、そして」、「連動するもの「生命」」出品(和光ホール・東京)
3月 第21回日本現代工芸美術展「弾音の響き」審査員
11月 第14回日展「波涛の砦」特選
昭和58年 4月 現代工芸美術家協会福井会委員長となる
昭和62年 11月 第19回日展「王妃幻想」特選
平成2年 11月 第22回日展「曼荼羅Ⅱ」新審査員
平成3年 4月 日展会員となる
平成6年 町立朝日東小学校(現朝日小学校)に百周年記念モニュメント「永遠に飛翔」(とわにはばたく)制作
平成7年 4月 現代工芸美術家協会福井会副会長となる
平成8年 11月 第28回日展「重複する鎮魂」審査員
平成10年 11月 第30回日展「冬山追想」審査員
平成11年 1月 11日、逝去
平成22年 4月 第30回記念・現代工芸美術家協会福井会展にて「故竹内英輔先生回顧展」開催(福井新聞社風の森ホール・福井市) 

風と街のメルヘン

沈思黙考

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第4集』2019年 より引用・一部改変したものである。

(2)田村民藤(たむらみんとう)

会員:平成13年~平成24年

田村民藤 略年譜
昭和7年 7月 19日、武生市(現越前市)に生まれる
本名は民男
昭和28年 3月 福井大学学芸学部卒業
昭和30年 織田町(現越前町)へ移住する
昭和36年 陶芸をはじめる
昭和39年 3月 雨田光平、山田外夫、越野達郎、原子光生、北野左仲(七左衛門)、梅藤哲朗とともに、「七人陶芸展」
開催(福井市役所市民ホール)
昭和42年 第20回福井県総合美術展彫刻部門「若い力」出品、作品は町立織田中学校正門へ建立される
昭和50年 11月 第28回福井県総合美術展工芸美術部門「フロスト」知事賞
第7回日展「北陸のフロスト」初入選
昭和51年 第16回日本現代工芸美術展「呼鳥の浸蝕」初入選
昭和56年 現代工芸美術家協会福井会発足に参加、事務局長となる
昭和58年 町立織田中学校体育館に陶壁「夢」制作
昭和59年 3月 第23回日本現代工芸美術展「コンセプション」会員賞
昭和60年 3月 第24回日本現代工芸美術展「コンセプション・E」新審査員
昭和61年 3月 町立朝日西小学校(現糸生小学校)に陶壁「飛躍」、モザイク原画「羽ばたく」制作 
4月 日展会友となる
平成元年 11月 第21回日展「萌芽」特選
平成7年 4月 現代工芸美術家協会福井会委員長となる
平成9年 8月 「郷土の作家たち展」の展示作家に選ばれる(主催:福井県立美術館)
町立織田中学校創立五十周年記念モニュメント「環聚」制作
11月 第29回日展「環聚=97」特選
平成12年 11月 第32回日展「収穫の詩」新審査員
平成13年 4月 日展会員となる
平成19年 4月 現代工芸美術家協会福井会副会長となる
平成21年 10月 「かたちづくる人々 土と炎の五十年へ」(主催:雨田光平記念館・越前町)
平成25年 公募展より引退

怒涛に立つ

発祥=99

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第4集』2019年 より引用・一部改変したものである。

(3)司辻光男(かさつじみつお)

会員:平成18年~

司辻光男 略年譜
昭和22年 10月 22日、生まれる
昭和42年 3月 福井県立丹生高等学校(定時制)卒業
4月 九谷焼作家宮多俊光氏について上絵付けを学ぶ
昭和48年 9月 第11回朝日陶芸展「黒い壷」初入選
昭和49年 6月 第2回中日国際陶芸展「黒い作品」初入選
昭和51年 10月 第29回福井県総合美術展「洞」福井県知事賞
昭和52年 10月 第9回日展「蜒る」初入選
11月 宮崎村文化奨励賞
昭和53年 3月 第17回日本現代工芸美術展「蛇行」初入選
昭和56年 宮崎村小曽原に窯を開く
昭和58年 3月 第22回日本現代工芸美術展「麗姿」現代工芸賞
昭和62年 3月 第26回日本現代工芸美術展「雪緩む頃」現代工芸会員賞
昭和63年 3月 第27回日本現代工芸美術展 新審査員
4月 日展会友となる
平成5年 9月 「郷土の作家たち展」(主催:福井県立美術館)
平成6年 3月 福井県文化芸術賞(福井県文化協議会)
平成7年 11月 第27回日展「兆し」特選
平成12年 11月 第32回日展「秋嶺」特選
平成14年 4月 日展出品委嘱者となる
平成17年 11月 第37回日展 新審査員
平成18年 4月 日展会員となる
平成22年 3月 越前町文化功労賞
9月 「かたちづくる人々 司辻光男作陶展」(主催:雨田光平記念館・越前町)
10月 第42回日展 審査員
12月 福井県文化賞
平成24年 7月 特別展「福井の技(Part2)伝統と現代」(主催:カレッジギャラリー敦賀屋・敦賀市)
平成26年 10月 改組新第1回日展 審査員
平成28年 11月 伝統的工芸品産業功労者 組合役員部門 経済産業大臣表彰 
平成29年 11月 卓越した技能者 厚生労働大臣表彰(ろくろ成形工)
平成30年 11月 黄綬褒章

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第3集』2018年 より引用・一部改変したものである。

(4)前田和伸(まえだかずのぶ)

会員:平成30年~

前田和伸 略年譜
昭和41年 7月 23日、生まれる
平成3年 3月 福井大学工学部卒業
平成4年 4月 名古屋工業試験所瀬戸分室研修終了
加藤釥氏、加藤令吉氏に師事する
11月 実家の国成窯で作陶を始める
平成5年 5月 第3回日工会展「涼風」新人賞
10月 第46回県総合美術展「風」知事賞
平成7年 5月 第4回陶芸ビエンナーレ入選
平成8年 11月 第28回日展「秋装」初入選
平成9年 5月 第7回日工会展「夢幻」日工会新人賞
平成12年 4月 第10回日工会展「幻影」読売テレビ賞
平成16年 11月 宮崎村文化奨励賞
平成17年 6月 第15回記念工芸美術日工会展「春葉の舞」第15回記念・日工会会員賞
11月 第37回日展「春の舞」特選
平成19年 4月 日展会友となる
9月 「企画展 安藤工・前田和伸」(主催:瀬戸市新世紀工芸館・愛知県)
平成20年 4月 第18回工芸美術日工会展「波蹟」日工会会員賞・新審査員
平成21年 5月 「工芸と装いの空間」(主催:古川美術館分館爲三郎記念館・愛知県)
平成22年 9月 第20回記念工芸美術日工会展「波蹟」内閣総理大臣賞
平成24年 11月 第44回日展「隆風」特選
平成25年 3月 福井県文化奨励賞
平成26年 4月 日展出品委嘱者となる
平成27年 4月 日展準会員となる
平成29年 11月 改組 新 第4回日展「波蹟」新審査員
福井しあわせ元気国体・大会炬火受皿「主催:「福井しあわせ元気」国体、障害者スポーツ大会実行委員会)制作(出品団体名:越前焼工業協同組合)
平成30年 4月 日展会員となる

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第3集』2018年 より引用・一部改変したものである。

3 日本伝統工芸展作家

(1)木村盛和(きむらもりかず)

正会員:昭和37~昭和60年

木村盛和 略年譜
大 正10 6月 15日、生まれる
昭 和9 4月 京都市立第二工芸学校陶磁器科入学
昭 和12 4月 商工省所管国立陶磁器試験所に職員として入所
昭 和15 5月 第五回京都市美術展覧会 「葉文天目釉花瓶」入選
昭 和17 1月 名古屋の陸軍中部二部隊へ入隊
昭 和20 8月 終戦
昭 和21 8月 五条坂で窯を開き、天目釉の研究に着手
昭 和22 11月 前衛陶芸集団「四耕会」(事務所:清水卯一)の結成に参加
昭 和23 9月 方向性の違いにより四耕会脱退、清水卯一、谷口良三の3人で「緑陶会」を結成する
昭 和28 この頃より売り物として「盛和焼」という名称で日常雑器を作る
昭 和30 8月 「日本工芸会」の発足に参画
昭 和31 10月 第3回日本伝統工芸展 「鉄釉皿」入選(以降昭和51年まで出品)
昭 和37 日本伝統工芸会正会員となる
6月 第3回プラハ国際陶芸展(チェコ共和国)佳作賞
 受賞作品、外務省が買上、ローマ日本文化会館に収蔵
昭 和39 9月 第11回日本伝統工芸展 「天目釉変り皿」優秀賞(NHK会長賞)
 受賞作品、京都国立近代美術館が買上
日本陶磁器協会賞受賞
昭 和41 3月 京都山科に移住し築窯
昭 和46 第18回日本伝統工芸展 第1次監査委員 
昭 和47 9月 日本伝統工芸会理事(~昭和53年まで)
昭 和48 6月 「現代日本の伝統工芸展」(主催:国際芸術見本市協会他)に作品展示(中国巡回)
昭 和50 10月 第22回日本伝統工芸展 監査委員
昭 和51 6月 福井県丹生郡越前町佐々生に移住、「小倉見窯」を築窯
昭 和52 NHK文化シリーズ 美をさぐる「天目茶盌に生きる」放送
昭 和53 4月 「福井県現代作家展」(主催:福井県立美術館)に「油滴天目釉壺」展示
10月 「日本陶磁名品展」(主催:文化庁)に作品展示(ドイツ巡回)
昭 和54 福井県内の工芸美術の向上発展を目指し「福井県工芸懇話会」を結成
昭 和55 5月 登り窯築窯
昭 和61 この年より無所属となる
4月 福井県文化賞受賞
昭 和63 3月 「作陶五十年記念展 木村盛和」(福井県立美術館)
平 成5 2月 福井県政教育文化功労者知事表彰
4月 勲四等瑞宝章授与
平 成10 9月 「郷土の作家たち展」(主催:福井県立美術館)
平 成12 福井県陶芸館名誉館長就任(~平成19年まで)
平 成27 8月 12日逝去

銅釉窯変結晶茶盌

※本文は、越前町教育委員会『越前町織田文化歴史館研究紀要 第1集』2016年 より引用・一部改変したものである。